大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島家庭裁判所 昭和43年(家)611号 審判

申立人 北村一郎(仮名) 外一名

相手方 北村二郎(仮名) 外二名

参加人 北村トシ(仮名) 外一五名

主文

一、被相続人北村幸之助の遺産につき、

(1)  申立人北村一郎は、別紙遺産目録(一)中番号五、八、一八、一九及び二一から二五までの各土地並びに別紙遺産目録(二)中番号六の建物を、

(2)  参加人北村五郎は、別紙遺産目録(二)中番号一から四まで、六、七、九、から一七まで及び二〇の各土地並びに別紙遺産目録(二)中番号一から五までの各土地を

それぞれ取得する。

二、参加人北村五郎及び同北村トシは、申立人北村一郎に対し、別紙遺産目録(一)中番号二四及び二五の土地を昭和四四年九月末日限り引き渡せ。

三、申立人北村一郎は、申立人代田正子に対し金三一万七、二六二円、相手方中山啓子に対し金一六万〇、六八八円、同北村三郎に対し金七万六、九七五円及び同北村二郎に対し金七万六、九七五円をそれぞれ支払え。

四、参加人北村五郎は、相手方中山啓子に対し金四一万四、八二六円、同北村三郎に対し金一九万八、七一六円、同北村二郎に対し一九万八、七一六円、参加人北村トシに対し金一七万五、二一九円、同北村幸子に対し金一万七、五二二円、同北村美代に対し金一万七、五二二円、同川又ヒデ子に対し金三万五、〇四四円、同国本孝明に対し金五、八四一円、同国本昌子に対し金五、八四一円、国本孝光に対し金五、八四一円、同国本孝俊に対し金五、八四一円、同国本孝行に対し金一万一、六八一円、同市川マリ子に対し金三万五、〇四四円、同上坂俊子に対し金三万五、〇四四円、同羽田秋子に対し金三万五、〇四四円、同永井美江子に対し金三万五、〇四四円、同北村洋一に対し金三万五、〇四四円及び同加住元子に対し金三万五、〇四四円をそれぞれ支払え。

五、(1) 本件手続費用中、鑑定に要した費用一八万八、〇〇〇円及び審判の告知に要した費用三、三四〇円は、これを四分し、その一を申立人両名の連帯負担、その一を相手方中山啓子の負担、その一を相手方北村二郎及び同北村三郎の連帯負担、その余を参加人全員の連帯負担とし、その余の手続費用は各自の負担とする。

(2) 相手方北村二郎及び同北村三郎は、連帯して申立人北村一郎及び参加人北村五郎に対しそれぞれ金二万三、九一八円を支払うことを命ずる。

(3) 相手方中山啓子は、申立人北村一郎及び参加人北村五郎に対しそれぞれ金二万三、九一八円を支払うことを命ずる。

理由

(審判分割の必要)

申立人両名は、祖父北村幸之助が昭和二六年一月四日、祖母北村ナツが昭和四〇年一月一五日それぞれ死亡し、同人等の遺産(亡北村ナツについては、北村幸之助の遺産を申立人等と共同して相続したことによる共有持分)につき順次相続が開始し、申立人両名、相手方等及び亡北村幸一が共同相続人となつたが、当事者間に遺産分割の協議が調わないため、昭和四〇年六月二二日遺産分割調停の申立をなした。なお、本件調査中の昭和四〇年八月一二日相手方北村幸一が死亡し同人の遺産について相続が開始したので、その相続人等が本件手続に参加(なお、参加人国本トシエ昭和四一年五月三一日死亡により、同人の相続人がさらに参加)した。そこで、当裁判所調停委員会は、昭和四一年三月二三日から前後一五回にわたり期日を開き種々調停を試みたが、結局、当事者間に合意の成立をみるに至らなかつた。

(相続人及び相続分)

(1)  被相続人北村幸之助には、相続人として妻ナツのほか、(イ)長男幸一、(ロ)二男幸二(昭和一七年五月八日死亡)の代襲相続人たる長男二郎及び二男三郎、(ハ)三男四郎(昭和一三年五月一九日死亡)の代襲相続人たる長女啓子、並びに(ニ)四男五郎(昭和二五年六月一日死亡)の代襲相続人たる長男一郎及び長女正子の六人の直系卑属があつたが、妻ナツは、前記の如く昭和四〇年一月一五日死亡し、同人の遺産(相続による共有持分)について相続が開始したので、前後の相続を通じて各直系卑属が受ける相続分(前記(ロ)の代襲相続人及び(ニ)の代襲相続人はそれぞれ共同して)は、遺言による相続分の指定がないので、法定による各四分の一ずつである(以上の相続関係を包括して便宜「第一次相続」ということにする)。

(2)  ところで、前記幸一は、前記の如く本件調停申立後の昭和四〇年八月一二日死亡したので、同人の遺産(前記相続による共有持分)を、妻トシ並びに長男義一(昭和二八年一月二九日死亡)の代襲相続人たる幸子及び美代、長女ヒデ子、二女ミチ子、二男五郎、三女マリ子、四女俊子、五女秋子、六女美江子、三男洋一及び七女元子が共同して相続し、次いで前記ミチ子は、昭和四一年五月三一日死亡したので、同人の遺産(前記相続による共有持分)を夫孝行、長男盛明、長女昌子、二男孝光及び三男孝俊が共同して相続した。しかして、上記各相続については、いずれも遺言による相続分の指定はないから、法定相続分にしたがい、亡幸一の相続人については、妻トシは1/3、直系卑属は各1/15(2/3×1/10、但し、義一の代襲相続人幸子及び美代は共同して)であり、亡ミチ子の相続人については、夫孝行は1/3、直系卑属は各1/6(2/3×1/4)である(以上の相続関係を包括して便宜「第二次相続」ということにする。)。

(相続財産の価額)

被相続人幸之助が相続開始当時において有した財産は、別紙遺産目録(一)記載の二五筆の土地であつて、鑑定人川田恵一の鑑定結果によれば、相続開始時におけるこれら価額の合計は別紙評価額記載のとおり三六万三、七九五円である。ところで、民法第九〇三条により持戻遺産となるものの価額は、別紙特別受益分目録記載のとおり合計一〇万四、四三九円であるから、相続財産とみなされる価額は、合計四六万八、二三四円となる。

(各自の相続分の価額)

(1)  第一次相続において相続分四分の一の価額は、一一万七、〇五八円五〇銭であるが、別紙特別受益分目録記載のとおり被相続人の生前生計の資本として亡幸一は二万〇、〇八五円相当の、亡幸二は一万五、三四〇円相当の、亡四郎は、一万〇、八八七円相当の、申立人一郎は五万八、一二七円相当の不動産の贈与を受けているので、各自の相続分の価額からこれらの特別受益分を控除すると、亡幸一は九万六、九七四円、亡幸二の代襲相続人二郎及び三郎は各五万〇、八六〇円、亡四郎の代襲相続人啓子は一〇万六、一七二円、亡五郎の代襲相続人正子五万八、五二九円、同一郎は四〇二円となる。なお、被相続人の出損により亡幸二は鹿児島県立第一師範学校を経て蔵前高等工業学校(東京工業大学の前身)を昭和三年ごろ卒業し又亡三郎は官立第一高等学校を経て東京帝国大学を昭和一〇年ごろ卒業し、いずれも特別の高等教育を受けていることが認められるけれども、このような特別受益は、当該受益者のみが享受でき、かつこれを代襲相続人に移転することが不可能であつて、受益者の人格とともに消滅する一身専属的性格のものであるから、受益者が死亡したのちは、代襲相続人に対し受益の持戻義務を課すのは相当でない。又、申立人一郎の特別受益分は、同人が亡五郎の死亡により推定相続人となる以前に被相続人幸之助から贈与されたものであるけれども、特別受益持戻制度が相続開始時における共同相続人間の相互の不均衡を調整することを目的としていることからすれば、受益者が、受益の当時推定相続人であつたかいなかは重要でなく、代襲相続人は、受益の時期いかんにかかわらず持戻義務を負うものと解すべきであるから、これを持戻遺産から除外するのは相当でない。

(2)  そこで、以上により計算された各相続人の相続分の価額を分子とし、これらの合計(三六万三、七九五円)を分母として、相続分の割合を示すと、次のとおりである。

(イ)  亡幸一    96,974/363,795

(ロ)  相手方二郎  50,860/363,795

(ハ)  同三郎    50,860/363,795

(ニ)  同啓子   106,172/363,795

(ホ)  申立人一郎   402/363,795

(ヘ)  同正子    58,529/363,795

(3)  次に、分割の対象となる遺産の分割時の価格は、鑑定人川田恵一の鑑定結果によれば、別紙評価額記載のとおりであつて、その合計は、一九七万一、九九四円である。そこで上記価格に前記相続分の割合を乗じて各相続人が分割により取得すべき価額を算出すると、次のとおりである。

(イ)  亡幸一      525,657円

(ロ)  相手方二郎    275,691円

(ハ)  同三郎      275,691円

(ニ)  同啓子      575,514円

(ホ)  申立人一郎      2,179円

(ヘ)  同正子      317,262円

(4)  第一次相続において亡幸一が分割により取得すべき価額は前記のとおり五二万五、六五七円であるから、この取得分について第二次相続の各相続人が法定相続分により取得すべき価額は、次のとおりである。

(イ)  参加人トシ    175,219円

(ロ)  同幸子及び同美代 各17,522円

(ハ)  同ヒデ子      35,044円

(ニ)  同盛明、同昌子、同孝光及び同孝俊各 5,841円

(ホ)  同孝行       11,680円

(ヘ)  同五郎、同マリ子、同俊子、同秋子、同美江子、同洋子及び同元子 各35,044円

(遺産分割の方法)

(1)  各土地について取得の希望が競合しない限り、それぞれ希望する土地を取得させるのが相当であるから、別紙遺産目録(一)中番号二から四まで、六、九から一六まで及び二〇の土地は参加人五郎に、同目録番号五、八、一八、一九及び二一から二三までの土地は申立人一郎(事実上は、同人の母花子において使用収益する)に取得させる。

(2)  別紙遺産目録(一)中番号一、七、一七、二四及び二五の各土地は、参加人五郎及び申立人一郎が競合して取得を希望しているところ、

(イ)  同目録番号一の土地は、昭和四〇年二月亡幸一が申立外北村利夫に事実上売却(代金は、幸一において受領したものと推認される)し、同人において耕作使用中のものであるが、特別の事情がない限り本件遺産分割によりこのような相続人の一人が第三者に与えた信頼及び事実状態を覆滅するのは相当でないから、亡幸一の農業経営を承継した参加人五郎に取得させ同人をして登記移転義務を履践させるべきである。

(ロ)  別紙遺産目録(一)中番号二四及び二五の各土地は、現在茶畑として参加人五郎及び同トシにおいて耕作使用しているが、本件土地は、もともと被相続人の存命中申立人一郎の母花子が耕作使用していたものである。ところで、前記花子は、現在鹿児島市○○○町所在の○○青少年ホーム従業員として住込稼働中であるが、将来の生活の安定と埼玉県の酒造会社に勤務している申立人一郎が帰郷する際の拠り所とするため、かつて、永年住みなれた本件遺産所在地石谷に帰農することをつよく希望しそのため、遺産中最も生産性の高い本件土地の取得を不可欠としており、この点は諸般の事情から充分首肯できるから、これを申立人一郎に取得させ、同人の母花子をして耕作使用させるのが相当である。もつとも、これにより参加人五郎は、本件土地を使用できなくなるが、本件土地は、もと前記花子において耕作していたものであり、参加人五郎は、生産性において本件土地に匹敵すると認められる別紙遺産目録(一)中番号二〇の茶畑を取得して引き続き耕作しうるのみならず、同人は鹿児島市内の建材商に勤務する兼業農家であるから、遺産分割により本件土地を手離すこととなつてもやむをえないところである。しかして、本件茶畑は、現に耕作中の参加人五郎等において最後の収獲を終了とするとみられる昭和四四年九月末日までに申立人一郎に対し引き渡すのを相当とする。

(ハ)  別紙遺産目録(一)中番号七及び一七の各土地は、前記番号二四及び二五の上地を申立人一郎に取得させる代償として、参加人五郎に取得させるのが相当である。

(3)  参加人幸子及び同美代の法定代理人愛子は、本人名義で現物の取得を希望しているが、同人等の相続による取得分の価額は、僅少であるのみならず、本格的な営農計画もないので、若し、同人等に現物を取得させるとすれば、営農実績をもつ申立人一郎の母花子及び参加人五郎の切実な要求を犠牲にし、彼らに農業用資産の細分化を招くこととなつて適当でない。

(4)  上記以外の本件当事者中に遺産の現物取得を希望する者はない。したがつて、本件遺産分割により申立人一郎が取得する不動産の価格の合計は、六三万四、〇七九円、参加人五郎が取得するそれは、一三三万七、九一五円となり、申立人一郎については、同人が受くべき相続分の価額を六三万一、九〇〇円、参加人五郎については、亡幸一が第一次相続において受くべき相続分の価額を八一万二、二五八円それぞれ超えて現物を取得することとなる。よつて、

(イ)  第一次相続においては、申立人一郎及び参加人五郎から現物を取得しない他の相続人に対し債務を負担することにより精算する必要がある。しかして、債権、債務の価値をできるだけ均質ならしめることは、分割の公平という見地から無視できないので、これを次のように配分する。但し、申立人一郎及び同正子は、兄妹であつて共通の被代襲者をもつ相続人であるから、申立人正子の債権は、申立人一郎に全額負担させるのが妥当である。

申立人正子の債権

相手方啓子の債権

相手方三郎の債権

相手方二郎の債権

申立人一郎の債務

三一万七、二六二円

一六万〇、六八八円

七万六、九七五円

七万六、九七五円

参加人五郎の債務

四一万四、八二六円

一九万八、七一六円

一九万八、七一六円

(ロ)  次に第二次相続においては亡幸一の遺産全部を参加人五郎において取得することとなるので、他の相続人に対し、相続分の価額に相当する債務を負担させることにより精算する必要がある。

(5)  なお、別紙遺産目録(二)記載の土地及び建物は、いずれも被相続人幸之助が生前において売却等の処分をなし、現に第三者において占有管理しているものであるが、相続開始当時までに所有権移転登記手続未了のまま放置されていたもので、実体上遺産には属しない。しかしながら、登記簿上は、現に遺産に属し、本件における多数の相続人等は共同して現所有者に対し登記を移転すべき不可分債務を負担しているところ、本件遺産分割の機会に、特定の相続人に上記義務を集中負担させることは、遺産分割制度の趣旨に背反するものではなく、又手続経済上現所有者の利益にも合致すると解されるから、同目録(二)中番号一から五までの土地については、事実上被相続人幸之助の農業経営を承継している参加人五郎を、同番号六の建物については、右建物の取得者花子の子である申立人一郎をそれぞれ登記簿上の取得者とし、同人等をして上記移転登記義務を履行させるのが相当である。

(手続費用の負担)

本件手続費用中、鑑定に要した費用一八万八、〇〇〇円及び審判の告知に要した費用三、三四〇円合計一九万一、三四〇円は、分割による受益の程度を考慮し主文第五項(一)のとおりその負担者を定め、その余の手続費用は、各自の負担とする。なお、申立人西一郎及び参加人北村五郎は、鑑定に要した費用及び審判の告知に要した費用を半分して立替支出しているので、同人等が負担すべき費用をこえる額につき主文第五項(一)による爾余の負担者をして負担させるため、主文第五項(二)及び(三)のようにそれぞれ支払を命ずることとする。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 橋本享典)

遺産目録(一)、(二)、遺産の評価額、特別受益分目録(編略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例